「顧客は自分が何が欲しいのかわかっていない」をわかりやすく例える方法
この話にはいろいろバージョンがあります。
- 「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」とヘンリーフォードが言った。
- 「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」とマーケティングの権威が言った。
- 「多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」とスティーブジョブズが言った。
普段からマーケティング議論に慣れている人にとっては、よく聞く話であり、ある意味で王道的な考え方であると思います(実践するのは難しいですが)。
しかし、このような思考に慣れていない人に対して上記のような比喩を持ち出したときに、果たして意図が伝わるのでしょうか?
ひとつづつ具体的に検証してみましょう。
(なおここでは比喩としての効用性を論じるのであって、ヘンリフォードやジョブズが本当にそう発言したのかどうか、どのような文脈で発言したのか、は問わないことにします。)
もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。
これは、ヘンリーフォードの先見性を物語っているようです。
ポイントは、
・自動車が普及する前の欧米では、交通手段といえば馬車だった。
・自動車を知らない人々は、自動車の利便性を想像できないので、「自動車を作ってくれ」とは言わない。
・ヘンリーフォードは、馬車という表面的なものにとらわれず、人々の本質的なニーズつまり「速く移動したい」という欲求を見抜いた。
ということでしょう。
ところが、この比喩には問題点は、
われわれ現代人にとっては、自動車の方が当たり前で、馬で移動する方が斬新なので、「さすがヘンリフォード!」と共感するのは難しい。
という点につきると思います。むしろ、馬を欲しがる顧客がいたことの方が、信じられない気がします。
つまり、比喩としてのインパクトがすごく薄いのです。
「顧客が欲しいのは、ドリルではなく穴である」
理屈としてはわかります。しかしあなたが最近ドリルで穴をあけたのは、いつのことでしょうか?
そういう仕事や趣味を持っている人にとっては日常的かもしれませんが、「ドリルで穴をあける」という作業は、大多数の人にとって日常的でないかもしれません。
日常的でないということは、共感しずらいということです。
多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ。
ジョブズを比喩に持ち出した時の問題点は、ヘンリーフォードのと同じです。我々はすでにiPod, iPhone, iPadを知ってしまっているので、iPhoneを知らなかった時代の顧客の気持ちを想像しにくくなってしまいました。
もう一つの問題点は、「MP3プレーヤー、スマートフォン、タブレットを発明したのはアップルなのか?」と反論されて話がこじれてしまう可能性があることです。
ことスティーブジョブズの業績の話になると、百家争鳴の議論になりがちで、話題が「顧客は自分が何が欲しいのかわかっていない」という本題からそれてしまう危険性が大いにあります。
ではどうすればよいのでしょうか?
「顧客は自分が何が欲しいのかわかっていない」をわかりやすく例える方法
現代人でも共感しやすいこんな比喩を考えてみました。もしあなたがドラえもんだったとします。
ある日のび太くんから、こう言われました。
「ドラエも~ん、虫歯になったから腕のいい歯医者さんを探して!」
さて、どうしますか?
のび太くんの希望どおり、腕のいい歯医者を探すでしょうか?
いいえ、そうはしないでしょう。
「虫歯が治るガム」をポケットから出すでしょう。
そう、のび太くんは、歯医者に行きたいわけではないのです。
虫歯を解決してほしいだけなのです。
どうですか?
わかりやすいでしょう?
「馬と自動車」「ドリルと穴」に比べて、こちらの方がはるかに共感しやすいのではないでしょうか。
企画会議などで一度使ってみてください。
ソフトウェア開発では、ユーザが欲しいと言ってるものと、本当の欲求の間にギャップがある
この考え方はソフトウェア開発ではとても重要です。ソフトウェア開発においては、要望を出す側(ユーザ、企画者、経営者、ユーザ企業など)はソフトウェアに詳しくありません。
なので、「腕のよい歯医者を探してほしい」みたいな要望があがってくることがあります。
このとき、「あなたが欲してるのは、歯医者ではないですよね?虫歯を解決することですよね?」と提案できるかどうかが、プロジェクト成功のカギを握っているのではないでしょうか。
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